［米を炊く 008］ つつみさんの話

暮らしの中で淡々と繰り返している
「米を炊く」ということ。

私にとっては、当たり前のように
そこにある行為だけれど、
みんな、どんな風に、どんな時に、
米を炊いているのだろう。
そして、その周りにはどんな日々が
続いているのだろう。

身近な人たちに、
それぞれの「米を炊く」と、
その周りにある日々のことを聞きました。

今日は、
つつみさんから聞いたお話です。

つつみさん

東京都町田市出身、東京都八王子市在住。鉄道会社勤務。休みの日には、本を背負って歩く「歩く本棚」など本に関わるゆるやかな社会実験もしている。電車の面白さはどんな人も排除しない場所であることと仰ってましたが、つつみさんが正にそんな人だなと思います。

つつみさんの米の炊き方
1． 米を研ぐ
2．1時間浸水する
3．ほんの少し多めの水を入れて炊飯器で炊く

　お米を炊くのは週に1-2回ですね。夜勤と日勤があるので、仕事のシフトに合わせて休みの日に炊いています。炊くときは、毎回5合炊くんですけど、1時間ぐらい浸水して炊飯器で炊いています。浸水をすることと、早炊きをしないことは意地でも守ってる感じがありますね。一気に5合炊くから、早炊きで美味しくなかったらきついかなと思って（笑）水の量は目盛りを表面張力で超えるぐらい。目盛りぴったりよりはちょい多め。休みの日に炊いて、3食分食べて残ったお米はタッパーに入れて冷凍しています。冷凍した分も食べきったら、次の休みにまた5合炊くというのを繰り返してます。

私の鞄には6枚切りの食パン

　移動し続ける仕事なので、ゆっくりと休憩を取るのが難しいです。深夜や早朝にお腹が空いても、休憩時間は10分だけということも多くて、コンビニに行く時間もありません。どうしようかなと思っていたある日、食パンを買ったらすごく効率がいいんじゃ無いかって気づいたんです。菓子パン1個と同じくらいの値段で6枚切りが1袋買えるし、お腹の空き具合に合わせて食べる枚数も調節できます。初めのうちは、食パンを持ち歩いている私を見て相方の車掌さんは苦笑いしてたんですけど、職場のトースターで焼いて食べていたらその香りに惹かれたみたいで、今では車掌さんも食パンを買っています。コロナで誰かと食事を楽しむ機会は減ったし、職場でも黙食ですけど、車掌さんと一緒に食パンを食べているときはその前後も含めて食事会みたいな時間でしたね。そして、今では運転士の私の鞄には6枚切りの食パンが入っていて、車掌さんの鞄には8枚切りの食パンが入っています。もし、その辺にお腹が空いて生き倒れている乗客がいたら分けてあげられるので、その点では日本一の運転士と車掌だと思ってます（笑）

後夜祭みたい

　私の運転する電車の沿線にあってよく行っていた本屋さんが、コロナの影響で隣町に移転することになりました。移転先まで3キロくらいだったから、「『歩く本棚』で本を背負って引っ越ししませんか」と提案してみたんです。怒られるかなと思ったら、意外と喜んで貰えて。結局コロナの感染が再拡大して実行は出来なかったんですけど、旧店舗での営業が終わった後に私の運転している電車に手を振る企画を立ててくださって、お店の人が皆集まってくれました。せっかくだから、皆が手を振っているところを地元の若いカメラマンに記録してもらったんですけど、それがすごく楽しかったですね。全部地元で働く人でできたっていうのも良かったです。閉店して隣町に移転するのはさみしさもあるけれど、「後夜祭みたいなことができて楽しかった」と言ってくれて嬉しかったです。来月、新店舗でそのとき写真を撮ってくれたカメラマンが個展をやるそうで、電車が無くても人を次の場所へ連れて行けたなーと思ってます。

愛着さえあれば

　今は新潟の友人がつくったお米を食べていて、それが食べ終わったら、学生時代の先輩がつくっているお米を買おうと思っています。そんな風に、知り合いのところからお米を買うのが楽しいですね。でも、それと同じくらい、思い出を噛み締めながら食べるのも楽しいです。食材や調理にこだわるのもそれはそれでいいんですけど、こだわりの食こそが正しいんだっていう感覚は全く無いですね。冬のすっごい寒い日の始発勤務後に同僚と食べるカップ蕎麦も車掌さんと食べる添加物いっぱいの食パンもめっちゃ美味いです（笑）友人からのお米を炊くのは一人でもワクワクするし、冬に食べるあったかいものは最高だし、トースターで焼いたパンも美味しい。それぞれ何を大事にするかの違いで、自分にとっての「丁寧な暮らし」は思い出さえあれば、カップ麺でもできるなと思います。